視界がぼやけて、楽譜が見えにくくなる。
やせ我慢がついに限界にきて、強い切なさに襲われていた。
本当は……もっと一緒にいたかった。
再会から別れるまで一年もないんだもの、短すぎるよ。
綺麗な茶色の瞳に、もっと私を映してほしかった。もっとたくさん話したかった。
恥ずかしくて真っ赤になっても、もっとキスしたかった。
私だけのために、もっとピアノを聴かせてほしかった。
もっと、もっと、もっと……。
せきを切ったように溢れ出す喪失感と涙に、伴奏の手が震えて止まってしまった。
どうしよう……まだ、三番の途中なのに……。
涙で楽譜が見えなくて、音符を追えなくなる。
伴奏がやんでも歌は続いているけど、指揮をする先生も、みんなも戸惑っているのが伝わってきた。
卒業式に黒いシミを残してしまうと焦っても、どうしても弾けない。
心が寂しくて、切なくて、涙が止まらない……。
その刹那に、誰かがステージに飛び乗って、私の元に駆けつけた。
奏……。
まだいたんだ……。


