私は大丈夫。こんなにも奏の旅立ちを喜ぶことができるから。

これが最後でも、悲しくない。
悲しむ必要なんかない。

夢に向かって進む奏を、遠くから応援するんだ。

いつかその情熱と努力が、実を結ぶことを願って……。


答辞が終わり、会場に拍手が湧く。

私の耳には入らなかったけど、立派な答辞だったようで、前の席の女子が感動の涙を拭う仕草をしていた。


「卒業生、合唱」という司会の言葉で、三年生全員が立ち上がる。

奏の後ろ姿を目に焼き付けてから『さよなら』と心に呟き、私は前に出てステージ上へ。


黒い横長のピアノの椅子に浅く腰掛け、両手を鍵盤に乗せる。

曲名は『未来を信じて』。

うちの高校の卒業ソングとして定着している曲で、一年前と二年前は在校生として先輩達の歌声をここで聴いた。

今度は、私達の番……。


ステージ中央には音楽の先生がいて、私と視線が合うと、指揮棒を振った。

ゆったりと静かに始まる前奏部分。

穏やかな明るさを感じる、優しいハ長調。

三小節目から歌が加わり、体育館がおよそ二百名の歌声で震えた。