そして、卒業式が始まった。
校歌斉唱、卒業証書授与、祝辞と、式は滞りなく流れていく。
広い体育館も、全校生徒と卒業生の父母が集まれば、酸素不足にならないかと心配になるほどに密度が濃い。
ステージ上には中央に演台があり、立派な生花が飾られ、国旗と校旗が並べて掲げられている。
演台では今、卒業生代表として元生徒会長の他クラスの男子が答辞を読み上げていて、これが終われば卒業生の全体合唱だ。
ステージ上の左端に置かれているグランドピアノに目を遣り、その視線を隣の列のふたつ前に座る奏に移した。
時刻はもうすぐ十一時半。
ギリギリまで参加したいと言っていたけど、そろそろここを出ないと飛行機に乗り遅れてしまう。
きっと奏は、合唱の途中で出ていくのだろうと思った。
答辞の内容はちっとも頭に入らず、意識が奏に持っていかれる。
焦げ茶色の髪の隙間に、形のいい耳が見えている。
ごく一般的なうちの制服を、誰よりかっこよく着こなしてしまう恵まれた体つき。
最後に見る奏は、後ろ姿になるのか……。
でも音楽室で写真も撮ったことだし、奏の笑顔は心のフィルムにも焼き付いている。


