「奏! どうしたの?」
「一緒に行こうと思って」
「だったらメールしてくれればいいのに。
もう、いつから待ってたのよ」
奏に積もった雪を払い、冷たい頬を両手で包むと、大きな手が上から被さり握られた。
「待ってたのは、ほんの十分ほどだよ。
それに、綾を想いながら見る雪は、温かく感じた」
奏の頬や鼻先は、寒さのせいで赤みを帯びている。
でも、家から出てきたばかりの私の方が、もっと赤い気もする。
そういう言葉は嬉しいけど、恥ずかしいから返事に困るよ……。
繋いだ手は、奏のコートのポケットの中に。
雪を踏みしめて無言で歩き出した私に、「照れてるの?」と奏はクスリと笑った。
バスに二十分揺られて、学校へ。
校舎内は静かで、こんなに早く来ている生徒はいないみたい。
教室のある三階まで階段を上って、足を止めると奏に言った。
「話があるの。
教室じゃなくて、人が来ないところがいい」
「うん。俺も話したいことがある。
音楽室に行こうか」


