アコールの店内で、マスターと常連客のおじさんふたりが談笑している。
カウンター席には制服姿の私が座っていて、奏の淹れてくれたカフェラテに口をつけていた。
いつもと少し違うのは、奥の部屋に置いてあるアップライトピアノが、テーブル席のあった壁際に設置されている点。
カウンターの中で洗い物をしている奏に、マスターが声を掛ける。
「香月くん、今日もピアノを一曲頼むよ」
流水を止めた奏は、「いいですよ」と嬉しそうに答えていた。
ピアノの椅子に座る奏。
鍵盤の蓋を開けて、白鍵を愛しそうに撫でてから、両手の指を置く。
カフェラテを飲んでいた私がピアノの横に行き、「月の光を弾いてよ」とリクエストした。
「ダメだよ、綾。
ほら、マスター達が準備してる」
ピアノの後ろに立つマスターは、バイオリンを構えていた。
常連のおじさんふたりは、クラリネットとチェロ。
始まった演奏は、ミヨー作曲の『ピアノ、バイオリン、クラリネットのための組曲』で、明るく軽快なメロディーが店内を賑やかにした。


