奏 〜Fantasia for piano〜


文化祭は、もうすぐ終わる。

模擬店などの一般公開は十六時で終了し、軽く教室を片付けたら後夜祭。

空は夜の帳が降り始め、雲が夕焼け色と紫の二色の層をなしていた。


校庭に集まった私達の真ん中には、キャンプファイアーのような組み木が赤々と燃え、火の粉がパチパチと夜風に舞う。

後夜祭は自由参加。

でもほとんどの生徒は帰らずにここにいるみたい。

奏も私の隣の土の上に足を投げ出し、黙って軽音部の演奏を聴いている。


「奏、文化祭は楽しかった?」

「楽しかった」


その言葉は嘘なので、喜ぶことはできない。

模擬店回りをして、演劇部や吹奏楽部のステージ発表を観て、奏は逃げずに終了まで付き合ってくれたけど、退屈そうに見えた。

今も私がしつこく誘ったから、仕方なく隣にいてくれるのか……そんな雰囲気を感じていた。

ということは、文化祭を楽しませる作戦は、失敗に終わったということで。


幼い奏の眩しい笑顔を思い出し、扉の中で見た中学生くらいの奏のレッスン中の表情も思い出す。