今まで奏に対し、どうして?と疑問をぶつけてきた私だけど、逆に問われると困ってしまう。
「どうしてと言われても……。
奏をこのままにしておけないというか、なんとかしたいと思って……」
「随分と漠然としているね。俺をどう変えたいのか、もっと具体的に言ってよ」
言葉に詰まる私。
お尻に伝わるコンクリートの冷たさを感じ、それと同じくらい冷えた奏の瞳を見つめながら考える。
奏をどう変えたいのか、明確な答えはない。
五歳の頃の奏は、茶色の瞳がいつもキラキラと輝いて、夢を語る笑顔が眩しかった。
あの頃のようにというのは、もう無理なのかな……。
今の奏の美しく整った真顔に、幼い彼の無邪気な笑顔を重ね、私は静かに語り出した。
「遠いところに白い世界があるの。
六角形のロビーの六辺から、通路が六本果てしなく伸びていて、両サイドの壁には無数の扉が付いていた……」
奏は眉を寄せ、怪訝そうに私を見る。
なにをおかしなことを言っているのかと言いたげだが、構わず私は言葉を続ける。


