店内にいるものだと思っていたのに、お使いに出ていたみたい。
じゃあ、私がドキドキして見つめていた人影は、マスターだったのか。
驚きの波が引くと、ごまかそうと慌てた。
「ええと、偶然通りかかって……」
「へぇ、偶然ね。
昨日も一昨日も電柱にへばりついてたようだけど、それも偶然?」
通ってたこと、バレてたみたい……。
奏はさぞかし呆れていることだろう。
これで完全に嫌われた。
肩を落としてうつむき、ボソボソと謝罪の言葉を口にする。
「付きまとって、ごめんなさい。それと、右手の怪我のこと……。
知らなかったとはいえ、随分ひどいこと言ったって気づいたの。ごめんなさい……」
「ネットで調べたの?」
見てきたとは言えないので、「うん」と頷いた。
その後には嫌な無言の間が空き、怖くなって顔を上げられない。
怒ってる……話す言葉もないほどに、怒ってるんだ……。
沈黙に耐えられず、「ごめんね!」ともう一度謝り、背を向けた。
駆け出そうとしたら、なぜか腕を掴まれ引き止められて、予想外な言葉をもらう。


