奏の右手首には白いガーゼが当てられていた。
コンクール中に刺され、この病院に入院したのかと予想したけど、奏の顔を正面から覗き込んで違うことに気づく。
コンクールのときの奏よりも、大人びた顔つきで、体も少し大きくなり、男らしさが増している。
刺された日から二、三年は経過してそうな気がした。
となると、この入院は……。
「ダルモン先生は評判がいいから、今回は期待できるわよ」
椅子に腰掛けた奏のお母さんが、励ますように息子に言った。
それに対して奏は「だといいね」と、なんだか冷めた返事をしている。
「いい方に考えないとダメ。全く動かなかった薬指も、三度目の手術のおかげで少しは動くようになったじゃない」
「ほんの少しだよ。
ピアノを弾けるまでには遠い」
「大丈夫! 切開部分がくっついたら、リハビリして、きっともっと動くようになるから。
万が一思うように改善しなかったら、お母さんがもっと腕のいい医者を見つけてくる。世界中を探してもね」


