「 奏、早く逃げて‼︎」
私は必死に声を上げ、奏の肩を揺すろうとする。
しかし、声は届かず、手はすり抜けるだけ。
会場の誰もが危険に気づいているというのに、奏だけは音楽を作ることに、全ての意識を向けていて……。
追いかける警備員に気づいた女が、急に走り出した。
奏との距離は、ほんの五メートルほど。
フランス語でなにかを叫びながら突進してきて、やっと異変に気づいた奏が、演奏を中断して横を見た。
振り上げられたナイフがライトを反射させ、会場のあちこちから悲鳴が上がる。
「やめてーっ‼︎」
大声で叫んだ私は、奏を守ろうと、両腕を広げて女の前に立ちはだかった。
しかし……振り下ろされたナイフは私の心臓をすり抜けて、後ろに届いてしまう。
振り向いた私の目に映るのは、奏の右手首の少し上に、深々と突き立てられたナイフだった。
引き抜かれると、そこから血が溢れ出し、白い鍵盤に滴り落ちた。
右腕を押さえ、椅子から崩れ落ちる奏。
女は警備員に取り押さえられながらも、私には分からない言葉で奏を罵っていた。


