女の人?
長い赤茶の髪を垂らした、中年の西洋人だ。
一瞬、なんらかの不備を見つけた関係者が、こっそり上がってきたのかと思ったけど、なにか違う。
胸元が大胆に開いた黒いワンピースに、派手なネックレスを付けて、どう見ても観客。
その人はゆっくりとこっちに向けて歩み寄り、その表情が見える位置までくると、私はハッとした。
怖い顔で睨んでる。
憎しみのこもる視線が奏の背中に向けられ、手にはなにかを握りしめていて……。
一歩一歩、恨みを込めたような重たい足取りで、その人は近づいてくる。
ステージを丸く照らすライトの端に彼女の姿が入ったら、手に握られているなにかがキラリと輝き、その正体が知られるところとなった。
ナイフだ。
嫌な予感に、私は焦りだす。
慌てて演奏中の奏に、危険を知らせた。
「奏! 後ろにナイフを持った人がいる!」
会場内の観客達も、不審者の存在にやっと気づき、騒めきが波のように広がっていく。
警備員らしき制服姿の男性が、ステージの端に飛び乗るのが見えた。


