なるほど。この場面は、さっきの練習室で、奏と先生が話していたコンクールなのだろう。
お客さんが大勢入っているところを見ると、数回の予選は終わり、本選なのかもしれない。
途端に胸がドキドキして、ハラハラもし始める。
奏は本選に残っているよね?
順番はこれからなのか、もう終わってしまったのか……。
そのとき、客席の照明が落とされ、舞台袖から奏が出てきた。
黒いフォーマルスーツに白い蝶ネクタイ姿で、思わず『かっこいい……』と見とれてしまう。
さっきの金髪青年の演奏後よりも大きな拍手が起きて、客席の期待の高さが伝わってきた。
予選から聴きにきて、早々と奏に目を付けている人がいるのかもしれない。
耳の肥えたフランスの人に無名の内から注目されるなんて、やっぱり奏の才能は飛び抜けているのだと感じた。
奏がピアノの椅子に座ると、拍手がやみ、ホールが静寂に包まれる。
コンクールの本選なら、多分三曲続けての演奏となるはず。
一曲目はモーツァルトの『ピアノソナタ、第八番イ短調』。
この曲はCDで聴いたことがある。
母親を亡くした影響なのか、モーツァルトのピアノソナタの中では一番悲劇的な色合いの強い曲だ。


