奏 〜Fantasia for piano〜


奏の真横に立ち、レッスンを見学する私。

フランス語が分からなくても、世界共通の音楽用語だけは理解できる。

どうやらコンクールが近いようで、奏が怖いくらいに真剣だということも伝わってきた。


成長した奏の音には、幼いときには足りなかった力強さが加わっていて、聴いていると鳥肌が立つ。

すごい……こんな音を出せるなんて……。

一曲通して弾き終えると、奏の先生も拍手して、『コンクールはもらったな』と言っているような雰囲気だった。


鳥肌が引いた後には、私の頬に涙が伝う。

本気でピアノと向き合う奏の瞳は、力強く輝いている。

そんなにもピアノを愛し、周囲のものまで焦がしてしまいそうな情熱を持っていたのに、この先の奏に、一体なにがあるというのだろう……。


そう思うのと同時に、急に景色がグニャリと歪んだ。

なにこれ?

グランドピアノも奏も溶けた飴細工のように奇妙な形に変形し、重力のバランスを失った私は立っていられなくなる。

自分が上を向いているのか、それとも下を向いているのか分からず、歪んだ世界の中でなにかに掴まろうと手を伸ばした。

すると、触れたものは突如現れたドアノブで、それを引っ張ったら、私の体はワープするかのように、別のシーンに連れて行かれた。