このときの会話を覚えている私は、笑いながら見ていた。
幼い自分の可愛らしい間違いが懐かしくて、嬉しかった。
このときは奏と心が通じ合っていた気がする。
今と違って……。
奏の演奏が始まり、私は幼い自分と一緒にうっとりと曲の世界に浸っていた。
あ……そこ、間違ってる。音が足りてない。
あの頃は気づかなかったけど、子供の手だから指が届かず、弾けない音もあったみたい。
それでも奏の演奏は素敵だ。
一音一音がキラキラと輝いて、ドキドキしたりキュンとしたり、心が揺さぶられる。
いよいよ、この曲が一番盛り上がるところに差し掛かる。
折角いい気持ちで聴いていたのに、それまで黙っていた管理人が、隣から話しかけてきた。
「こちらにいらしたのは、彼の演奏を聴くためですか?」
その問いでハッとする。
そうだった。
聴き入っている場合じゃなかった。
いつ元の世界に戻されるか分からないのだから、早く聞かないと。
奏がピアノを辞めた理由を。


