私は無個性で、何にも取り柄が無い。短所でもいいから、何か他の人と違うところが欲しい。

「ほしいなら、手に入れる方法がある」

「誰ですか……?」

真っ黒な世界で、男の声だけが聞こえる。花彩 水帆(かさい みずほ)は、声がした方を向く。

「これをつかえば、理想の自分になれる」

真っ黒な世界から現れたのは、槌だった。

「これはどう使うのですか?」

「打出の小槌って言ったら分かりやすいかな。これで、理想の自分に似ている人を叩くんだ」

「でも、その人は怪我しちゃうじゃないですか」

さすがに、人を傷つけてまでほしいとは思っていない。

「大丈夫。怪我はしない。魔法の槌だからね」

魔法と聞いて、とうとうこんな夢を見るほど自分は個性を求めているのか……と水帆はあきれた。

「疑っているのなら、実際に使ってみればいい」

そう言われると意識が飛んだ。