放課後の教室は賑やかな笑い声に満ちていた。クラス替えをしたばかりといっても、小さな田舎町の高校でのことだ。
クラスメートの大半はすでに馴染みのある顔だった。

だからこそ、自分のように浮いた存在は一層際立ってしまう。
みちるは楽しそうにお喋りをするいくつかのグループに背を向けて、一人ぽつんと窓の外を眺めていた。


まだ初々しさの残る野球部の新入部員達が一生懸命グラウンドの整備をしている。意外と体育会系な演劇部が陸上部にも負けない速度でランニングをしている。

部活動というのは、クラス以上に強固な結束を生むものらしい。
一緒に同じ競技に取り組むというのは、そんなにも絆を深めるものなのだろうか。特にやりたいものがないからというシンプルな理由で部活に入らなかったのは失敗だっただろうか。

考えてみたところで、今更どうにもならない。みちるは小さくため息をついた。
そんなみちるの背中に明るい声がかかる。

「みちるちゃん、みちるちゃん」

みちるが振り返ると、去年も同じクラスだった石川さんがにこっとみちるに笑いかけた。
高い位置でまとめたポニーテールが快活な彼女によく似合っている。
石川さんは明るいムードメーカーで、去年も今年もクラスの中心人物だ。

「今から皆でなるちゃんちに行こうって話してたんだけど、みちるちゃんもよかったらどうかな?」

なるちゃんこと、鳴沢さんも好意的な笑顔を向けてくれた。

にもかかわらず‥‥

「ごめん。 今日はちょっと予定があって。ごめんね」

みちるの口から出たのはそんな言葉だった。みちるが浮いた存在なのは、クラスメイトのせいではない。むしろクラスの皆はみちるが輪に入れるように、なにかと気遣って話しかけてくれていた。
クラスに馴染めないのは、みちる自身の問題だった。


予定があると言ってしまった手前、あまりグズグズと教室に居残る訳にはいかない。

「また今度遊ぼうね〜」

そんな優しい声に見送られて、みちるは足速に教室を出た。

‥‥せっかく誘ってくれたのにな。
なんで、「行きたい」と素直に言えないのだろう。

みちるは誰かと特別に親しくなることを恐れていた。いや、正確には仲良くなってから嫌われるのが‥‥怖いのだ。
そのくせ、友達なんて要らない。そう言い切れるほど強くもなかった。

予定なんて何もない。かといって、家には帰りたくない。
みちるの足は自然といつもの場所へと向かった。