じゃらりと重たい鍵を置いて、部屋の中に入ると、沙耶子はテーブルの上のノートパソコンを開く。

 そして人差し指がぴったりはまる電源ボタンを軽く押すと、パソコンはブウンという低い唸り声を上げて画面が仄かに光り出した。

 寂しいときには、寂しさの中にとことん落ちちゃえばいいんだよ。そうしたら、自分を繋ぎとめるものの存在が有るのか――それとも全然無いのか、わかるから。

 その言葉通りに、沙耶子は部屋の電気も点けずにゆっくりと沈む。水でも飲もうと冷蔵庫のドアを開けると、その扉が別世界への光に溢れているようで、少し可笑しい。カタカタ、と小さな音の後、湖面に広がる朝陽のような起動音とともに、デスクトップの画面が映し出される。

 沙耶子は小さな水のボトルを左手に持ちかえると、迷わずにブラウザをクリックし、検索欄にカーソルを置いた。

 前に触れたのは、いつだっただろう。

 少し中身の減ったペットボトルの中の水が、テーブルに置かれ、くぐもった音を立てる。沙耶子の目に光がいっぱいに映し出される。

 繋がりは、確かめようと思えばいつでもそこにあるのだ。沙耶子が初めて彼に繋がった時のように、彼が初めて沙耶子に触れた時のように。

 少しの感傷に浸った後、沙耶子の指がゆっくりとキーを叩く。

「オ、ク、シ、マ――」

 その文字の並びは、さざ波のような懐かしさを伴って沙耶子の心をざらつかせる。

「マ、サ、キ」

 少しの間、そしてエンターキー。それだけで、唸りを立てる機械は光る画面に義務的な情報を羅列した。