橘分家は広い。

 本家や喜屋武家に比べればかわいらしいものだが、分家とはいえやはり御三家。和洋折衷の館は庶民から見れば大邸宅である。

 道場もあるし庭も広大。家族四人で掃除するのは大変だと思われがちだが、実はそうでもない。

 幼い頃から城のような家の掃除当番をしてきた拓斗、同じくノエル。学生寮の管理を任されているペインに魔女っ子のセレナである。家の中どころか屋根の上までお茶の子さいさいだ。



 そんなこんなで大掃除中のセレナ。自室の掃除を終えた彼女は、掃除用具を片付けようと廊下に出た。

 そして隣にある兄の部屋の前で足を止める。

 兄のノエルは父や門下生たちとともに道場の大掃除をしている。昨日は家の外壁と窓をやっていたし、自室までは手をつけていないのではないだろうか。

 いつもドジをやらかして兄に迷惑をかけているセレナ、ここで思い立つ。

 そうだ、私が兄さんの部屋を掃除してあげよう、と。

 そんな彼女の優しさが、すでに嫌な予感しかしない。


「お邪魔しまーす」

 きちんと整理整頓されていて、すっきりして見える兄の部屋。けれども普段の掃除だけでは行き届かない部分もあるだろう。まずはハタキを手に上の方からパタパタパタと埃を叩き落とす。

 クラシック好きなところは父譲りか、兄の部屋にはオーディオプレーヤーや大きなスピーカーが置いてある。年代物の蓄音機なんかもあるので、セレナはドジをやらかさないように丁寧に、丁寧に拭いていく。