そろそろ準備に取り掛からなくてはならないな。

 家の隣にある雑貨屋の作業場にて、最近人気のシリーズ『綾小路』のキルトカバーをちくちく縫いながら、花音はのほほんと考えた。

 夕城の嫁となってから、演奏会などの回数を減らし、店の方も店員を補充してもらい、善と子どもたちに使う時間を大切にしてきた花音。

 彼女にはこれからの季節、そんな家族のために大切にしている行事があった。

「えーと、確かこの辺に……」

 作業場の棚に置いてある箱を下ろし、中身を確認。手にしたそれは、ふわふわした赤いワンピースと赤い三角帽子だった。サンタクロースの衣装である。

 毎年手編みの大きな靴下を用意し、家族に枕元に置いて寝るように言い渡すのだ。

 毎年サンタクロース役は花音である。

 家族三人とも、サンタクロース──夕城家では『赤い妖精』と呼ばれている──を信じているため、花音がこっそり動いているのだ。

 え、花音は信じていないのかって?

 もちろん信じていた。けれどももう卒業した。二十歳になったときに!(どーん)

 それまでサンタ役として頑張っていた父に倣い、花音も家族に愛と幸福に満ちたプレゼントを枕元に届けるのだ。