夢中で貪り、わずか10分ほどで完食した。
これには祭も驚いたようで、「聡くんって、フードファイターだったの?」と思わず訊いてきたほどだ。
「もちろん、違う。」そう答えた。
「で、食べ終わったのはいいけど、どうやってここから出るんだ?」
そう。問題はここからどう出るかだ。俺はまだいい。ただ、祭は女で、ここは男子トイレだ。
男子トイレから出てくる女は、東京駅とかでよく見かけるが、あれは歳を取ったおばさんに限られる。ツアーかなんかで来て、女子トイレの混雑具合に苛立ち、ふと隣の男子トイレを覗いてみる。
「あ! 今なら行けるわよ! 男2人しかいないから!」
その合図で、3人のおばさんが一斉に個室に駆け込む。そんな話を漫談で聞いたことがある。
祭のような年頃の女が出て来たら、問題になるだろう。また看護師長のババアに叱られる。前科二犯。外出禁止令も出るかもしれない。
「聡くん、ちょっと覗いて来てくれる?」
俺は、戸をそっと開けた。俺の名前の書かれた点滴台があるだけで、誰もいない。
「よし、今だ!」
そう言った瞬間。
カラカラカラッと点滴台を転がす音が聞こえた。
「あー! まずい!」
俺は祭の胸を勢いよく押して、個室の扉を閉めた。



