「よお、坊主。まだいたのか?」
そう言って俺にカーディガンをかける男がいた。薄暗くてよく見えなかったが、よく見えなくてもわかるそのシルエットと声は、伏見さんに違いない。
そうじゃなくてもいい。誰でもいい。どうでもいい。
「やけに冷えるな。今日は夜から雪が降るらしいぞ?」
伏見さんらしき人は、俺の隣に勝手に座った。勝手にとは言っても、ここは公共の場だ。誰が座ろうが関係ない。
「坊主。お嬢ちゃんの親父さんに会ったんだろ?」
その問いに驚き、隣に座った人の方を向いたその瞬間、街灯の明かりが点いた。やっぱり伏見さんだった。
「……なんで知ってるんですか?」
「なんでって、病室に訪ねてきたからな。『あなたが七原聡さんですか?』って言われた時は驚いたよ。『違います。』って答えたら、『ですよね。いやあ、てっきりあなたが祭の言う聡くんかと思って、娘の趣味を疑いましたよ。』とまで言われたよ。失礼な奴だよな、まったく。こんなにいい顔なのに。」
思わず吹き出してしまった。
「伏見さん、鏡をよく見た方がいいですよ?」
「なんだ、坊主まで。俺ってそんなにひどい顔か?」
「ひどい顔です。」
「そうか、ひどい顔か。」
二人して大笑いした。俺は笑いながらも涙を流していた。こんなに面白い話なのに、なぜか涙が溢れてきて、ああ、俺は今、悲しいのを笑ってごまかそうとしているんだなと思った。



