「私は単純な答えを求めてたんだよ。『鳴かぬなら鳴くまで待とう時鳥(ホトトギス)』って言うだろ? その言葉を象徴するかのように、家康は時代の流れを読むのが上手かったんじゃないかって。そういう大名って結構力持ってたりしないか? ほら、土佐藩の山内容堂とか。」
「山内容堂は元々幕府寄りの大名だろ? 薩土同盟で、時代の流れに逆らえなくなっただけじゃないのか?」
「それもあるけど、船中八策を徳川慶喜に建白するなんて、とてもそんなことできないだろ? 幕府寄りの人間が幕府に大政奉還を迫ってるようなもんだぞ? きっと容堂は時代の流れを熟知していたんだよ。幕府の時代は終わるって。」
話がどんどん遠退いていくような気がした。
「それで、何が言いたいんだよ?」
「ああ、そうだった。だから私はとりあえず、座して待つことにしたわけさ。徳川家康を見習ってね。どこかに必ずチャンスはめぐってくる。それまでは下手なことはしないで我慢しようって。そして、その策は見事当たった。それがつい最近のこと。」
俺は思わず立ち上がった。
「……ウソ泣きか?」
「そう。ウソ泣き。座して待つとは言ったけど、その間に蓄えは必要だろ? 七原くんがどういう人間で、どういう敵がいるかまでそれとなく人に訊いたりして、情報を集めたわけだ。」
「敵? 敵ってどういうことだよ?」
俺は椅子に座った。
「七原くんって本当に鈍いよな? キミ、自分がどれだけモテてたか知らないだろ?」
俺は「ほ?」とも「へ?」ともとれる口をした。



