「……あ、ごめん」



つい、我を忘れて。

けど、良かった。

ハル、顔色が良くなってる。



「ハル……オレも、ホント幸せだよ」



ハルを再度、そっと抱きしめて、そうささやく。



「さ、ご飯食べようか?」



オレは気を取り直して、一口食べさせただけのお椀に目をやり、雑炊が溢れてこぼれているのに気付き……瞬時に、それは見なかったことにして、オレの分のお椀に雑炊をよそって、ハルに差し出す。



「きっと、ちょうど良い具合に冷めた頃だと思うよ」



オレの言葉を聞いて、ハルはくすくすと楽しそうに笑った。



窓からは見えるのは、木漏れ日がきらめく緑の木々と青い空。

夏の日差しは強いけど、エアコンを入れなくても、窓を開けるだけで十分に涼しい風が通る避暑地の別荘。



ハルのために覚えた料理も、今日からは弁当に限らず、いつでも食べさせる事ができる。

きっと、沙代さんが、毎食は譲ってくれないだろうけど。

だけど、一緒に作るのなら、許してくれるんじゃないかな?



オレの実家じゃなく、ハルの……オレたちの新居のキッチンで、ハルのために料理をする。

そんな光景がふと脳裏に浮かび、オレは思わず笑みをもらした。



そんな穏やかな毎日が、永遠に続く事を願いながら。


(完)