「………来ない…」


昨日あれほど「10時に流星くんの学校の最寄駅で集合ね!」って言ったのに。

あたしの腕にはめられた細いチェーンの腕時計が示すのは、10時15分。

…乙女を待たせるとか普通ナシなんだけど!!


「あーあ、今日折角気合い入れたのに」

白のブラウスに紺のフレアスカート、ニーハイに落ち着いた色のパンプス。
いつもは耳の位置で二つにくくられた髪だって下ろして、細いカチューシャにしたし、メイクだってナチュラルメイク。
ギャップ狙いでドキッてさせる作戦だった。


…そ れ な の に!!


当の本人が来なかったら意味ないでしょ〜!!?



はぁ…とため息が溢れそうになった、その時。


「…はっ、お前、紛らわしいんだよ…っ!」


突然後ろから肩を掴まれて、ビクッと振り返ると、そこにはどこか戸惑ったような…焦ったような、複雑な表情を浮かべた流星くん。


……って。

「紛らわしいって何?!」

「いっつもアホみたいに元気だから、私服もそういうもんだと思ってたんだよ!」


…なんて単純な思考。

でも、そっか…。ギャップ作戦は失敗か、、


流星くんに『可愛い』って思って頑張ったのにな。


あからさまにシュンとしたあたしに、流星くんは「あーもー…!」と荒々しく手を取る。



「予想以上に可愛くてわかんなかった、って言ってんの!
一回で理解しろ…!!」

「っ……」


なにその不意打ち。
てかなんであたしより流星くんの方が顔赤いの?


そんなの…あたしまで伝染るじゃん。


「ね、今日はどこ行くの?」

「知らね。さっさと行くぞ」


動揺を隠すように聞けば、しらーっと交わされて、繋がれた腕を引かれる。

知らないのに行くとこ決まってるなんて、ひどい矛盾だよ、流星くん。



でも………

とっても、楽しみ…!!!