…無理して笑って。バカじゃないの。
「泣きたい時は、泣いていいんじゃん?」
「それ、先輩には言われたくないですよ」
うっ。
た、確かに……。
特大ブーメランを受けて目をそらす私を見て、矢嶋くんは吹っ切れたように微笑んだ。
「美咲先輩。最後に、お願いです。」
「…なによ」
「ボクのこと、これからは名前で呼んでくれませんか?」
「なんで」
「えーー…。最後のお願いなんだから聞いてくれてもいいじゃないですかー」
「…あんたとは名前で呼び合う仲じゃないと思ってるからヤダ」
「わぁい先輩シンラツー!」
バンザーイと両手を上げてみせる矢嶋くんに、私はこっそりため息を吐く。
なんなの、本当に。
「…名前呼んでくれたら、先輩のこと、諦めますよ」
「多分無理だとは思うけどねー」
空を仰ぐと、穏やかな青に飛行機雲が流れていて、眩しくて目を細めた。
「あれ、先輩自信家ですね」
「なっ、バ…っ!違うわよ!!
………だって、私は知ってるもの。『好き』は簡単に消えないってこと」
「………………………」
すっかり黙り込んでしまった後輩に、私は爆弾を落としてみる。
「ーーじゃあね、【晴】!私、これから色々やんなきゃいけないことあるから」
「えっ、ちょ…せんぱ…っ」
サッと片手を上げて来た道を引き返す途中で、晴の焦った声が聞こえたけど、そのまま振り返ることなく進む。
…なんか、晴の告白を受けて、ちょっとわかった。
彼がフラれて尚笑えていたのは、フラれる覚悟があったからだ。
「覚悟、決めてかなきゃ」
そんな美咲の後ろで、晴はぽつりとこぼす。
「本当、バカですね、先輩。
余計諦めきれなくなるじゃないですか…」
彼の呟きは、透明な雫と共に校舎裏の土に吸い込まれたーーー



