「でも…もう、やめましたけど。」
「え…?」
呟くように発せられたその言葉に、私は訊き返す。
もうやめた、って…。
こんなに、楽しそうなのに??
なんで?
「美咲さんと、出会ってしまったからです。……まぁ、それ以外にも、あるんですけどね。」
と、はにかんだように笑う。
「本当は、高校に入ってからも不良行為は続けるつもりでした。
だけど、美咲さんに出会って、その…恋をして……このままじゃダメだって、そう思いました。」
「……あ、私の、せいってこと…?」
「ち、違います!そういうことが言いたかったんじゃなくて…。
だって、不良のままじゃ敵視されるだけで、そんなに接点は持てない。だから、真逆になって、美咲さんを止める役に回れば、関わりも増えるかな…と、そう思って……」
な、なに、それ……。
なんか、て、照れる!!!
赤い顔の私とは反対に、雪弥は悔しそうに唇を噛んだ。
「だけど…やっぱり駄目だったんだ……!僕みたいなやつが美咲さんと関わろうだなんて…。
喧嘩をさせて、怪我まで負わせてしまった…!!!あなただけは、傷つけたくなかったのに!!
…すみません、美咲さん。
僕はあなたとは付き合えない。
……付き合う資格なんてない。
だって、僕に彼女が出来たなんて知れたら、今よりもっと強いヤツらにあなたが狙われることになる。
傷を負わせた身でこんなことを言うのはおかしいってわかってますけど、でも、美咲さんにはこれ以上僕と関わって傷ついて欲しくないんです…!!
だから、もう、僕とは関わらないでください……!!!」
それだけ言うと、雪弥は走って行った。
「なんで…雪弥……」
ウソでしょ?冗談でしょ?夢…なんでしょ??
夢なら早く覚めてよ…!!!
ーーだけど、ジンジンと痛む左頬が、これは現実なんだって思わせる。
ポタリと溢れた雫が、痛む傷を、更に痛ませた……。