ふぅ、と一呼吸吐いて、彼を真正面から見つめる。



「お、おう……」



竜門くんは驚いた顔をして私を見ていたが、なぜか視線を私から外して、手の甲で口を隠した。


あれ、今の仕草なんか可愛い、かも。


思わぬところでキュンとして、私はへへへ、と照れ笑いをした。


すると、竜門くんがズンズン私の方へやってきた。



「え、あの?」


「うるさい黙れ」



言葉のキツさとは裏腹に、今度はさっきとは違って、優しく私の頭を軽く撫でた彼。



「竜門くん、くすぐったい」



撫でられる手に神経を使っていれば、だんだんとそう感じてきて、目を細めた。



「ほんっと油断できねーな」



本音を漏らすようにボソッとつぶやいた竜門くんは、私の頭を両手で目一杯撫でて手を離した。



「うぎゃっ、ぐしゃぐしゃ……」



乱れてしまった髪を整える私を、少し頬を染めた竜門くんが食い入るように見るから、恥ずかしさを感じて下を向いた。


そこに、竜門くんの友達がひょこりと顔を出した。



「竜、昼飯食べねーの?」


「……今行く」



そう返事をした竜門くんは、私に向かって軽く手を上げて友達の方へ歩いて行った。




「…………好き」



溢れた言葉は、誰にも届くことなく廊下に消え去った。


たった1日でこんなに好きにさせるなんて、竜門くんはずるいや。


胸に手を当てて、思わず笑った。


彼のファンのことがあまり気にならなくなるくらい、私は彼が好きになっていた。