「あ」
友達と歩いて教室を出て行こうとする竜門くんの後ろ姿を見送る私は、はたと気付いたことがあった。
倒れかけた時に支えてくれた感謝の言葉を伝えていないことである。
でも、廊下で声をかけるのはそれこそ恐れ多いなぁ……。
ほら、竜門くんファンに話しているの見られたら怖いし……。
「花、教科書持っててあげるから行っておいでよ」
そこで芹ちゃんが唐突に、私の考えを読んでくれたらしくそう言ってくれた。
「え、ありがと、芹ちゃん。でも……」
「はいはい。ほら迷ってる暇ないよ、早く追いかけなー」
少し考えて、大きく頷いた私は芹ちゃんに教科書を預けて、竜門くんを追いかけた。
男の子の歩幅は広いもので、竜門くんとバイバイしてからそんなに時間は経っていないのに、結構距離ができていた。
私は、女の子特有の小さい歩幅で足を懸命に動かした。
「りゅ、竜門くんっ」
廊下で声をかけるのは勇気がいる。
だけど、自分で彼に伝えたいから。
振り返った彼が、私を見て少し驚いた顔になる。
「さっき倒れかけた時、支えてくれてありがとう!」
まくしたてるように早口になってしまったが、ちゃんと伝えられた。
つ、伝えられたぞ……!