「なーんて素敵な傷でしょう」

 それは、予期していない出来事だった。

 高等部の校舎に用事があり、廊下ですれ違った。

 肩と肩がぶつかり、よろけてこけてしまった。

 帯の色が赤だった為、慌てて謝罪したというのに。

 相手は彼女の腕を掴み心底楽しそうに笑んでいた。

 聞き覚えのない言葉に掴まれた腕に目をやり、血の気が引いた。

 そこには、父親の刻んだ愛の証。

 他人に見られることは悪い事だと知ったのは最近のことだった。

 慌てて隠したが遅い。

 「あなた、名前は?」

 彼女の通う日英学園(ひよしがくえん)は帯の色が所属を示している。

 黄色なら初等部、緑は中等部、赤なら高等部。

 彼女は緑のリボン、つまりは中等部、相手は赤リボン、つまりは高等部。

 先輩に廊下でぶつかったのだ、名前も名乗らずにこの場をされない。

 おまけに彼女は腕の痣を見られたという弱みもあった。