その途端、
「…っ。」
突然、後ろから羽交い締めにされ小さく悲鳴が出た。
けれど、後ろから回されたその手をその腕を私の体は記憶している。
私のお腹の当たりに回されている少し骨ばった大きな手をじっと見つめる。
「なんで?」
「えっ…」
「なんでなんだよ。」
彼の声が耳元に響く。
「なに、が…?」
「なんで勝手に決めつけんの?」
「ねぇ、離して…人が見てる。」
「俺、頼りない?俺、いつまでたってもガキ?」
止めて…
そんな切ない声で言わないで…
揺るぎそうになる決心を奮い立たせる。
「そうね…、場所も考えず感情だけで動く所とか…、やっぱり子供っぽくて呆れる。」
出来る限りの冷静な声を出す。
彼の顔が見えないのは救いかもしれない。
顔を見てなんてとてもじゃないけどーーー
するりと私の体に巻き付いていた腕が離れていく。
「…ごめん。困らせて。」
彼はそれだけ言うと私から完全に離れた。
さっきまで背中に感じていた彼の気配がどんどん遠退いて行くのが分かる。
今ならきっと追いつける。
ごめんって。
強がってたって。
あなたの事を好きになりすぎて、
見苦しい姿を見せたくなかったのって。
だけどーーー
私は振り向かない。
私は私を保つ為にも、
振り向かない。
霧雨が私をゆっくりと濡らしていく。
せめて、
せめて、もっと強く降ってくれたなら
今にも溢れそうになっている涙を素直に流せるのに。
こんなにもこんなにも強く唇を噛まなくて良いのに。
霧雨はそれでもふわりと私をぬらすだけだった。