月明かりに照らされ彼と肩を並べて歩く。


久しいこの距離感をさらに縮めたくてお互いの指と指を絡ませ手を繋ぐ私達。


あの時、追いかけ取らなかった彼の手を、二度と離さないようしっかりと繋ぎ止める。


ほんの少し力が入ってしまった私の手を彼が更にぎゅっと握り返し、いつかのようにその指先に唇をそっと押し当てる。


その行為にまた体の奥が熱くなる。


雨はもう止んでいた。


見上げれば夜空に低く浮かぶストロベリームーン。


幸運の印だって何かで読んだことがある。


ちょうどいい、私の頬がさっきからずっと赤いのはこの月のせいだと言えるかも。


そんな可愛いことを思っている自分に呆れる。


だけど、簡単な事だった。


二年前…あれほど苦しんだ彼との恋は恐れず素直になる事でいとも簡単に私の心を解放した。


もちろん、それは一度失ったからこそ手に入れたものだけど。


目の前にいる彼が好き。


そして、彼も私の全てを含めて好きだと言ってくれている。


ただそれだけで、心が強くなれる。


自分の弱さも強さに変えてくれる。


「何?」


私の視線に気づいた彼が立ち止まり私の方を見る。


「ううん、なんでもない。雨、止んだわね。」


「ああ、そうだね。」


また歩き出す私達。


「…やっぱり、」


立ち止まり彼の方を見る。


「ん?」


「やっぱり…好きって言いたくて。」


雨上がりの赤い月が私の心を素直にしてくれる。


彼は少し目を見開いたかと思うとーーー


「知ってる。俺も好き。だけど、」


そこまで言うと私の耳元に顔を寄せ


ーーーーそんな可愛い事言って、知らないよ。この後、覚悟して先生?


「…っ。もぉ!自分だって先生の癖に。それに私はもう先生じゃないしっ。」


必死に抗議するも


「はい、はい。先生じゃなくて今は主任だっけ?」


余裕な笑顔を浮かべてそんな事を言う彼に私は叶わない。


それにこんな風にふざけ合うやり取りが心地よく思えるのも漸く私達があの頃より前に進めた証なのかもしれない。


ふざけあいながらもしっかり手を取り合い夜の街を歩く私達を手を伸ばせば届きそうな月が見守っていた。


雨は止んだばかり。


これからもきっと何度も何度も雨に降られる事もあるだろう。


その度に私たちは立ち止まるかもしれない。


だけど、きっと大丈夫。


二人ならきっと大丈夫。


二度とこの手を離さないように。


どうか、この恋がずっと続きますように。


雨上がりの夜空にそっと願った。