「先生って彼女いるの?」


「いないよ。」


「えー、嘘ぉ。先生、格好いいのに?」


「格好よくなんかないよ。」


「うわっ、それうちのクラスの男子が聞くと嫌味に聞こえるよ。」


「クラスの男子の方が僕みたいなおじさんよりずっと格好いいだろ?ほら、中川とか、サッカー部の。」


「先生、自分でおじさんって…ウケる。まだ先生になって二年目なのに。そうそう、サッカー部のって中川ケンイチでしょ?確かにねぇ、モテるけど彼女いるよ。みんな公認だよ。やっぱ、幼馴染みって存在は大きいよねぇ。あっ、やば、もうこんな時間だ。この後、彼氏と待ち合わせしてたんだ。」


そう言いながら上目遣いでこちらを見てくる彼女は既に男に対しての駆け引きというものを自然と得ているのだろう。


「それじゃあ、仕方ないね。ありがとう。後はやっておくから。日直、ご苦労様。」


「先生、ありがとう。やっぱ、先生のそういう所、格好いいよ。大人の余裕って感じ。じゃ、お言葉に甘えて失礼しまーす。」


短すぎるんじゃないかって心配になるスカート丈をひらりとさせながら去っていく彼女を親目線で見送る。


「遅くならないように。」


はーい、と適当な返事を聞き、デスクに腰を下ろす。


「大人の余裕、ね。」


窓の外を見るとさっきまで晴れていた空が曇り始めていた。


ーーーひと雨来そうだな


梅雨なのだから仕方ないけれどこうも天候不順が続くと気持ちが滅入る。


この重く湿った空気と


雨が降る前の独特の匂いが、


俺の心を未だかき乱す。