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その日の夜。

「どうぞ」

「ありがとうございます!もしかしてハイヒール、クリーニングに出してくださったんですか?」

篠宮さんのお宅の広い玄関でハイヒールを受け取りながら、私は彼を見上げた。

「うん。だってあの日、昼過ぎまで雨だっただろ?真優ちゃんは噴水に落ちた後走って帰っちゃったけど、あの後この靴、可哀想に左右とも泥水の中に」

「ちょっと、篠宮さん」

「ん?」

篠宮さんが少し眉をあげて私を見下ろした。

いつもは切れ長の眼が、今は少し無邪気にみえる。

「可哀想なのは、ハイヒールよりもドロドロになってた私の両足じゃないですか?」

「じゃあ、重量級のバッグで殴られた俺の頭は?」

あ……!

そう言えば、キスした後に思いきり遠心力を付けたバッグで……。

「それはその……大丈夫でしたか?」

テヘッと可愛く笑ってみたけど、篠宮さんは一瞬驚いた顔をした後、どこか呆れたような眼差しを向けた。

「なにを今更」

「……」

数々の女らしくない自分の行動に冷や汗が出る思いで少し眼をそらすと、篠宮さんは私の二の腕を掴んで引き寄せた。

「それに昨日だって」

「……っ……!」