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私は篠宮さんに乗せられたタクシーの中で、どうして彼が怒っているのかを考えてみたけど、全く心当たりがなかった。

……佐伯さんを泣かしちゃった事以外は。

「あのー……」

「なに」

男っぽい頬を窓の方に傾けて、篠宮さんは低い声で私に返事を返した。

「佐伯さんが泣いちゃって早退したからですか?俺の麻耶を泣かせやがって的な感じで、怒ってるとか」

だとしたら私のこの恋は、本当に粉々だ。

「は?」

篠宮さんが狐につままれたような顔をした。

……違うの?

じゃあもう分かんない。だって私は今、酔っ払ってるし考えるのも面倒だし。

だから私は手っ取り早く謝ることにした。

「篠宮さんがどうして怒ってるのか分かんないけど、取り敢えずごめんなさい」

瞬間、篠宮さんが素早く私の方に身を乗り出した。

右肩と腕が彼に密着してドキッとした私の気持ちなんて知りもしない彼は、ムッとしたような低い声を出した。

「分からないのに謝るのかよ」

切り込んだような二重の綺麗な眼が、イライラしたように私を見据えた。