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結局、佐伯さんは具合が悪いと言って早退した。

「どうせまた、お嬢様の気紛れでしょ。あんな気分屋の補佐なんて園田さんも大変よね。早く仕事覚えた方がいいわよ」

苦々しい顔でこう言った中村さんに何も言えず、私は佐伯さんの広げていた図面をファイルにしまうとデスクに戻った。

佐伯さんは……どうして泣いたんだろう。

ダメだ、仕事をしないと。

無理矢理考えないようにするのは難しくて、私は何度も溜め息をつくとその都度ギュッと眼を閉じた。

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会社を出て駅に向かう最中で、高広から連絡が入った。

『真優?今日会えないか?飲みに行こうぜ』

明るくて爽やかな高広の声。

私は思わずフフッと笑った。

『なんだよ』

「なんか、幸せそうだなーって思ってさ」

『バカにしてんのかよ。まあいいわ。今どこ?』

「デザインタフ出て駅に向かってるとこ」

『じゃあ、SLのとこで待ってて。すぐ行くから』

「わかった」

押し殺すと決めた気持ちにしがみつくよりも、他に目を向けた方がいい。

私は高広の顔を思い浮かべながらそう思うと、仕事終わりの人の群れに紛れて駅へと向かった。