あなたにspark joy

そんな私をなぜか篠宮さんが驚いたように見下ろしたけど、私はそのままゲートを通過してエスカレーターに乗ると、二階にあるエレベーターホールへと向かった。

「待って」

エスカレーターから離れて数歩歩いたところで突然腕を掴まれて、私の鼓動がドキンと跳ねた。

「……なんですか?」

自分でも驚くくらい抑揚のない声が口を突いて出た。

それでも笑顔は絶やさない。

そんな私に再び篠宮さんが眼を見張った。

「昨日は……ごめん」

「いえ、こちらこそお邪魔をしてしまってすみません。靴を預かっていただいてるのを思い出したものですから」

用意していた言葉は思いの外スムーズに言えた。

「ああ……俺の方こそごめん。返すの忘れてて。もしよかったら今日家に届けるけど」

「いえ。それは申し訳ないので、近い内、出勤時に持ってきてもらえませんか?」

篠宮さんは唇を引き結んで私を見つめた。

「……分かった」

「では失礼します」

私はにっこりと微笑むと、篠宮さんに背を向けて歩き出した。