あなたにspark joy

佐伯さんはそれを解かれまいと身をよじった。

「麻耶、いい加減に、」

「いやよ、慶太」

目眩がしてよろけそうになるのを、必死で抑えた。

もう、声を出す余裕なんてなかった。

消えたい。早くここから立ち去りたい。

私は何も言えずに踵を返すと、元来た道を駆け出した。

走った為に鼓動が激しいのか、抱き合うふたりを見てしまったからなのか。

いや、後者だ、分かってる。

止まることなく走り続けたいのに、息が上がって苦しい。

私はやむなく走るのをやめた。

早く、早く帰りたい。

私は駅へ向かわず、大通りからタクシーを拾った。

乗り込んで行き先を告げると、何度も大きく深呼吸をして息を整えようと試みる。

後部座席に座るとようやく全身の力が抜けた。

その途端にさっきの光景が眼に浮かび、私は唇を噛みしめた。

なんてバカなんだろう、私は。

篠宮さんと佐伯さんは別れていて、もうふたりには何もないと勝手に思い込んでいた。