***

三時間後。

「うわっ!」

駅の階段につまづき、勢いよく前のめりになった私の足音に、隣を歩いていた男性が驚いて身体をビクリと震わせた。

「す、すみません……」

足元をちらりと見た後、何事もなかったように歩幅を広げて去っていく男性の後ろ姿を見つめて、思わず私は首をかしげた。

……飲みすぎたってほどじゃないと思うけど……。

その時、篠宮さんと同じ香りがした。

慌てて辺りを見回したけど私を追い越していく人々の中に彼はいなくて、登り終えた階段の脇で私は足を止めた。

巻き起こる風を受け、思わず車道に顔を向ける。

飛び込んできたのは、行き交う車のヘッドライトとテールランプ。

たちまち篠宮さんの車で送ってもらった記憶が蘇る。

二人だけの、暖かくて薄暗い車内。

運転をする篠宮さんの横顔。

……あの時も、前田さんから助けてもらったんだ。

怖い前田さんから遠ざけてくれて、柔らかい眼差しで私を見つめた篠宮さん。

もう心配ないって言いながら、私を腕の中で安心してさせてくれて……。

……会いたい。

……篠宮さんに会いたい、今。

気がつけば私は、ホームへと引き返していた。