あなたにspark joy

「……はい……」

「……そう。よかった。それから昨日の事だけど、秋彦に話しておいたから」

その途端前田さんのキスが蘇り、思わず私は唇に手をやった。

そんな私を篠宮さんが黙って見つめる。

……もしかして……今ので気付かれたかもしれない。

前田さんとキスしたって。

嫌だ、あれは望んでじゃない、違う。

私はそんな自分を見られたくなくて篠宮さんに背を向けると、課長のコーヒーを淹れ始めた。

「……お気遣いありがとうございます」

「それから……ごめん」

トクン、と鼓動が跳ねた。

どうしたらいいか分からず、振り向けなかった。

コーヒーを持つ手が無意識に止まる。

やはり前田さんとキスしたのを篠宮さんは気付いていたのだ。

その上で謝るというのはつまり……。

「俺も最低だ。傷付けてごめん」

私は、篠宮さんと初めて会ったあの夜を思い出していた。

パステルカラーの噴水、濡れた身体、それから篠宮さんとのキス。

痺れるような感覚が身体の中に生まれて、それが指先まで届き弾ける。

キスを謝られて苦しくて、胸がキュッと軋んだ。

謝ってほしくなかった。

だって篠宮さんとのキスを、なかった事にしたくないから。

ダメだ、泣くな。ここは仕事場だ。

私は力を振りしぼると、篠宮さんを振り返った。

「……大丈夫です」

私は篠宮さんに頭を下げると、課長のデスクへと急いだ。