あなたにspark joy

取り出して、唇を何度も何度もゴシゴシと拭く。

拭いていると、あの時迫ってきた前田さんの顔が思い出されて涙が溢れる。

前田さんを責める気持ちと同じくらい、自分にも腹が立つ。

どうして私、二人きりで飲みになんかいっちゃったんだろう。

どうしてもっと警戒しなかったんだろう。

もうどうしようもないのに、悔やまれてならなかった。

「部屋まで送るよ」

「すみません……」

痛みは大分落ち着いてきた。

篠宮さんは私の足首を気遣いながら、遅い歩調に黙って合わせてくれた。

エレベーターを降り、部屋の前まで来た時、篠宮さんが私を見つめた。

「湿布ある?」

「ないです……」

「貼って寝た方がいい。俺、買ってくるからシャワー浴びて着替えておいて」

「でも、そんなのご迷惑じゃ」

「迷惑じゃないから。ここで俺が帰ると真優ちゃんは手当てとかしそうじゃないし」

悪戯っぽく笑った篠宮さんを見て、キュ、と胸が鳴った。