あなたにspark joy

「よしよし。もう大丈夫。立てる?」

「……はい……」

何とか涙をこらえてそう返事をすると、私は篠宮さんに腕を引かれてゆっくりと立ち上がった。

「近くのパーキングに車停めてるんだ。送るからおいで」

「……すみません……」

一歩踏み出そうとして足首に激痛が走った。

そんな私を見て、篠宮さんが足を止める。

「足、痛い?」

「……ゆっくりなら歩けます」

「いいよ、無理しないで。俺に掴まって」

篠宮さんが、フワリと笑った。

それから私をゆっくりと抱き上げる。

ああ、と思った。

当たり前だけど、前田さんとは全然違う。

密接した篠宮さんの身体が温かくて心地よい。

前田さんのような、恐怖からくる心拍の上昇じゃなくて、安心でそれでいて踊るように胸の中で何かが弾ける。 

甘くて切なくて、嬉しくて。

これは……好きって気持ちだ。

私、篠宮さんが好きだ。

いくら鈍感な私でもこの気持ちが何か、はっきりと分かった。

私、篠宮さんを好きなんだ。

なのに、前田さんにキスなんかされて……!

嫌だ、凄く嫌だ!

篠宮さんの車の中で、ようやくバッグの中の除菌シートを探し当てることが出来た。