あなたにspark joy

……そういえばシリアルIDの件で……。

画面をタップすると、着信を知らせる表示が浮かび上がる。

篠宮さんだった。

帰るチャンスに思えた。

「前田さん、じゃあ私失礼します。電話をかけないと」

素早くビール代をテーブルに置き、スマホを耳に当てながら店の通路を歩いていると、すぐに篠宮さんが出た。

『真優ちゃん』

「篠宮さん……」

声を聞いたとたん、全身から力が抜けそうになる。

篠宮さんの声が、耳に心地よい。

ううん、耳にだけじゃない。身体中が温かくなっていく感覚に、私は思わず両目を閉じた。

「篠宮さん……」

何を喋ればいいんだっけ。言葉が出てこない。

そんな私を何となく察してくれたのか、篠宮さんがはっきりとした声を出した。

『迎えにいくよ。真優ちゃん、いまどこ?』

「え、あの山崎製作所の近くの居酒屋に前田さんと……シリアルIDが判らなくて助けてもらったので、それで。でも、でも私、」