私はそれ以来店の前を通る度に彼が居ると入るようになった。


私は彼に対しては何故か積極的になれた。

と言うより積極的になってしまっていたのかも知れない。


彼の名前は大原辰雄と言い私は大原君と呼ぶようになっていた。


年齢は私の一つ上で二十九歳だった。


大原君は私の事を名前で呼んだりせずに、ちょっととか余程の時は君とか呼んだ。


私はそういう彼を見ていて益々好きになっていったのだと思う。

彼は無口で多くは語らなかったが仕事は内装工事の会社に勤めていて彼女は居なく洋楽や映画が好きで身体を鍛えるのも趣味だと分かった。


彼と会うのは店だけだったが私は思い切って映画に誘った。


火星で独りぼっちになる当時流行ってた映画だった。


彼は原作を読んでると言ったが楽しめたようだった。


私はその後も食事やショッピングに彼を誘った。


ショッピングの時は新しいダンベルが欲しいと彼が言った為にあちこち歩き回ったが彼の気に入る物は無くてそれでも楽しかった。


ダンベルを探すのに街中を歩き回りそれでも楽しいなんて事は私は彼に完全参っていたのだろうと思う。