火のついた爆弾の導線のような火花が、
バチバチと散っているのを間近に見て、
一触即発の危機が迫っていることを痛感した。
そしてカレンさんと根岸さんの壮絶バトルはまだ続く。


カレン「根岸くんが出ていくなら、
   この騒ぎの張本人にも出ていってもらわなくちゃね。
   あの子が来て碌なことがないし、
   カズだって仕事に身が入ってない。
   貴方が今すぐ出ていくって言うなら、
   濱生星光を一緒に連れってもらえない?」
根岸 「は!?彼女はまったく関係ないだろ!
   どうして星光さんがやったと言い切るんだ!」
カレン「じゃあ、聞くけど。
   貴方はあの子がやってないとどうして言い切れるの!?」  
根岸 「俺があんたに聞いてるんだ!」
カレン「濱生星光のせいで私の仕事はめちゃくちゃ!
   残りの撮影だって無事に終わるかどうか。
   彼女のせいで、うちも昴然社みたいになるんじゃないの!?」
根岸 「あんたがそんなこと言えるのか。
   これまで自分が何をしてきたか忘れたのか!」
カレン「それを言うなら貴方も同罪よ!
   根岸くん。私に何かあったら貴方も道連れにするわよ」   
根岸 「ふっ。事が思うようにいかなくなったら脅しをかけるか。
   あんたって本物の魔女だよな」
カレン「私のしようとすることを邪魔するなら遠慮なんかしないわ。
   魔女にも地獄の番人にだってなるわよ!」
風馬 「怖い女だな。言ってることむちゃくちゃだ!
   さっきから黙って聞いてれば、
   全部星光のせいにして、好き勝手なこと言いやがって!」


その時、騒ぎに気がついた北斗さん、
東さん、流星さんも二階から下りてきた。
北斗さんたちはびっくりしたような表情を浮かべ、
現状を把握しようと見ている。
根岸さんはカレンさんの言葉に動じることはなく、
堂々とした様子で向き合っている。
きっと夏鈴さんの存在が彼の心を強くし、
立ち向かう揺るぎない決意が生まれたのだ。


根岸 「これ以上、私的感情を持ち込むのはやめろ。
   このまま続けるなら、それこそあんたが撮影できなくなるぞ」
カレン「いえ。
   あの子が今すぐ私の目の前から消えてくれたら済む問題よ!」
七星 「カレン!」
星光 「もうやめてください!
   これ以上私のことで言い合わないでください。
   カレンさんの言う通り、
   私がここを辞めて出ていけば済むことです」
村田 「キラちゃん、何を言いだすの!?」
星光 「苺さん、もうこんな光景を見るの辛いんです。
   私のことで皆さんが争う姿を見るのが、
   辛すぎるんです……」
根岸 「星光さんは黙ってろ。
   これは俺とカレンさんの問題だ。
   過去5年分のことも含めてな」
カレン「違うわ。これは私と濱生星光との問題よ!」
東  「お前ら!いい加減に言い合うのはやめろ!」

さすがの東さんも見るに見兼ね、
カレンさんと根岸さんに声をかけた。
もう収集がつかないほど各々の感情が飛び交い、
苺さんと田所くんはおろおろするばかり。
しかしある人物の言動で、場の空気は一転する。
それはここに居る誰もがまったく予想もしなかった事態で、
それまで罵倒していたカレンさんまでも言葉を失うくらい。


浮城 「カレン。もうやめないか」
カレン「はぁ!?陽立には関係ないわ」


根岸さんの隣でずっとやりとりを聞いていた浮城さんは、
黙ったまま階段の中段から下りてきた。
そしてカレンさんを見つめながら、
ゆっくり近づくと彼女をぎゅっと抱きしめ、
とっても優しい穏やかな声で、
何もかも悟っているように話しかけたのだ。
抱きしめられたカレンさんはもちろんのこと、
根岸さん、私、その場にいた全員が茫然とその光景を傍観する。


浮城 「根岸はカメラを壊してない。
   もちろん、星光ちゃんもだ。
   それはお前がいちばん分かってるだろ?カレン」
カレン「な、何も知らないくせに!
   陽立まで何を言い出すの!?」
浮城 「見たんだ、お前のこと。
   聞いたんだよ。駐車場で……」
カレン「えっ!」
浮城 「俺の言ってる意味、分かるよな」
カレン「ひ、陽立!放してよっ!」
浮城 「カレン、いったいどうした?
   今のお前は俺が知ってるカレンとはまったく別人だぞ。
   何がお前をそうさせてるんだ」
カレン「何……」
浮城 「お前は気が強くてプライドが高くて、
   俺のことをいつも冷たくあしらってたけど、
   それでも仲間思いで、
   肝心な時はいつも俺たちを助けてくれていたよな。
   以前のお前は愛情も友情も、
   両手でしっかり握っていたのに、
   いつどこに置いてきたんだ」
カレン「……」
浮城 「お前。今すごく寂しいだろ?すごく孤独だろ」
カレン「陽立、放して」
浮城 「いや、放さない。 
   今、お前の心の中に抱えてるもの全部降ろして、
   また俺たちのところへ戻ってこいよ」
カレン「訳わかんない。放して!」
浮城 「放さない!俺は、以前のカレンが大好きだ。
   だから、いつものカレンに戻るまで俺はお前の傍に居る」
カレン「もう。放してったら……」
浮城 「ぜったいに放さない」
カレン「何故!?」
浮城 「本気で惚れてるからだ」
カレン「そんなの嘘よ。
   私のことなんか誰も好きなわけ……」
浮城 「俺は大好きだよ。
   お前がカズを好きで俺を嫌ってても。
   お前はひとりじゃないんだ。
   お前の傍には俺が居る」
カレン「陽立。もしかして、泣いてるの!?」
浮城 「……」
カレン「何故……何故、陽立が泣くのよ」
浮城 「……」
カレン「陽立。泣きたいのは、私なのにぃ……」
浮城 「カレン」



浮城さんの突然の告白と、彼の頬を伝う涙に驚き、
両目に涙を湛え貰い泣きするカレンさん。
そんな脆い彼女を優しく見つめながら、
駐車場での出来事を思い出す。


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