でも彼の気持ちは霧のように不透明で、
私にはまったく掴むことができない。
それどころか、これ以上話したくないのか、
私の存在を否定するように言い切る。
七星「君は部外者だ。
ここで何が起こってるかわからない人間があれこれ口を出すな」
星光「……」
流星「兄貴、そりゃないだろうよ!」
村田「七星さん。
キラさんは七星さんのことはもちろん、
みんなのことを心配して言ってくれてるのよ」
星光「いちごさん、いいんです。
なんだか私、七星さんのこと見損ないました。
もっと冷静に全てを見渡せる人だと思ってたけど、
こんな分からず屋を信じてついてきた私がバカでした。
でも、ひとつだけ言わせてください。
これは根岸さんがやったんじゃない!
これだけは分かってください」
七星「……」
流星「星光ちゃん!」
風馬「星光!どこ行くんだよ!」
北斗さんの視線をこれ以上見つめるのが居た堪れず、
私は抑えきれなくなった感情を彼に投げつけて、
皆に一礼するとリビングから飛び出し、足早に玄関に向かった。
流星「兄貴、何を躊躇ってるんだ!
あのことと星光ちゃんのことは全く関係ないだろ!」
七星「お前!まさか……知ってるのか!」
流星「ああ!とにかく今は彼女を追っかけろよ!」
風馬「七星さん。このままあいつをほっとく気ですか。
あんた、この間俺に言い切っただろうが!
惚れてる女は自分のやり方で守るって。
それがこれですか!」
七星「……」
風馬「なんで黙ってんだ!
あんたにまで見放されたら、今度こそあいつ身投げしますよ!?
それでもあんたは平気なのか!」
七星「(くそぉ……)」
北斗さんはぐっと両手をグッと握りしめて、
やり場のない怒りを拳に託すしかなく、
まるで裁きを受けている罪人のように首を項垂れている。
玄関フロアに出るとそこには根岸さんが立っていて、
心臓が止まるんじゃないかと思う程ドキッとした。
私を見つめて優しく微笑んでいる。
彼に軽く会釈して、外へ行こうと玄関のドアノブに手をかけた時、
根岸さんが私の手を掴んで引き留めた。
根岸「こんな遅くに何処へ行く?」
星光「もうここに私の居場所はありません」
根岸「だからって、こんな夜遅くひとりで外へは行かせられない」
星光「根岸さん、お願いです。行かせてください」
根岸「俺は夏鈴と約束したんだ。君を守るって」
星光「えっ」
根岸「仕方がないな。
後で行くから、俺の車の中で待ってて。
車は外門から向かって三台目の黒のランクルだから、
寒かったらエンジンをかけてていい」
星光「根岸さん……」
根岸「いいかい?絶対一人で何処かへ行くなよ。
ひとりで森の中に入るのも駄目だからな」
根岸さんは私に車のキーを渡し、
バッグを下ろしジャケットを脱いで私の肩にかけてくれたのだ。
そして再びバッグを持つと、
堂々と胸を張って戦場のリビングに入っていった。
私の目には、その背中が何物にも恐れない勇ましい戦士の様に映り、
大切な夏鈴さんと信じ合った絆と心の強さの象徴にも見えたのだった。
(続く)
この物語はフィクションです。

