私たち二人の後姿を見送った北斗さんの表情は、
どことなく不安げに見える。
姿が見えなくなると北斗さんと浮城さんはベンチに腰を下ろした。


七星「陽立、誤解ってなんのことだ」
浮城「ごめん。仲嶋さんにお前のこと聞かれたんだ。
  恋人か奥さんが居るかって。
  それで話してたんだよ」
七星「なんだって?
  なんであの子が僕のことを聞くんだ。
  お前、まさか涼子のこと話してないよな」
浮城「俺は話してないさ。
  だけど、カレンがあの子の前で涼子さんとお前が同棲してて、
  簡単に切れる仲じゃないなんて言いだしたものだから、
  仲嶋さんとカレンがバトルになってさ。
  カレンもお前に惚れてるだろ?
  だから一歩も譲らないし、結局激怒して帰ってしまったけどな。
  このままじゃ誤解されると思って、つい」
七星「あいつ……至らんことを言いやがって。
  弟のことも話したのか」
浮城「話そうと思ったところにお前らが入ってきたんだよ」
七星「はぁーっ。
  まぁ、いずれは話さないといけないことだが、
  あの様子じゃ理解しただけって感じじゃないだろうからな」
浮城「カズ、すまん。
  でも、しっかり仲嶋さんの勤め先に住まい、
  連絡先も聞いておいたから、時間作ってじっくり話せばいいさ」
七星「おい。なんでお前があの子の連絡先を聞いてる」
浮城「あは、あはははははっ!
  ああいう気の強いタイプが実はタイプなもんで」
七星「まったく。呆れた奴だな」



外に出るとさっきまで土砂降りだった雨は止んでいて、
まばらだった人の波も、また活気が取り戻している。
そんな中を早歩きのまま無言で歩く夏鈴さん。
まるで、北斗さんから私を引き離す様に、
どんどんその足は速くなっている。
いつもと違うその様子に私は戸惑いつつ歩いていたが、
もう少し行けば駅の建物が見えてくるというところで、
堪らず私は引っ張られる腕を逆に引っ張ったのだ。
彼女が北斗さんにここまで憤慨する理由を知りたくて……



夏鈴「何。どうしたの?」
星光「夏鈴さん、どうして北斗さんに怒ってるのか教えてください。
  あれだけ私と北斗さんが逢うことを応援してくれてたのに、
  急に帰ろうなんて言い出して。
  浮城さんと何かあったんですか?」
夏鈴「そのことは帰ったら話すわ。
  それよりも、寮でもっと重大事件なの。
  だから早く帰ってるのよ」
星光「寮で重大事件ってなんですか?」
夏鈴「それは、キラちゃんの車が盗難車として通報されて、
  福岡の警察からうちの会社に電話があったからよ」
星光「えっ!?」
夏鈴「なんで至らないことをする奴がいるんだろ。
  正規の場所に車を停めてんのに!
  嫌な予感がするんだ。
  だから早く帰って店長に事情を聞くのよ」
星光「う、うん」


引き留めた彼女は眉間にしわを寄せている。
でもその表情は沈痛な面持ちにも取れた。
夏鈴さんの嫌な予感は、私も想像できる。
これがキッカケで私の居場所が家族に知られるということ。
今までの経験上、それだけでは済まないことも重々心得ている。
私の心拍数は先ほどにも増して強く早くなっていったのだった。

(続く)


この物語はフィクションです。