「ところで、お前、秘書室に移動するか?」

 唐突な申し出に、
「はい?」
と訊き返す。

「いや、徳田に少し怒られたんだ。
 いきなり子供を作ってくれとか言う奴があるかと」

 ……怒られなきゃわからないのも大問題だと思いますが、と思いながらも徳田に大感謝していた。

 この男、見た目もいいし、仕事も出来るようだが、人生に於いて、なにか大事なものを取り落としてきたような感じがするからだ。

「もうちょっとお前と話せと言うんだが、いつも昨日みたいな感じで、あまり話す暇もないからな。
 俺の秘書になれば、顔を合わせる機会も増えるだろ?」

「でもそれって、社長、お客様です。
 わかった、くらいしか会話増えないことないですか?」

 仕事中は真面目そうな渚の勤務態度を思い、そう言うと、
「まあ、そうかな」
と言う。

「でも、お前の顔は見てられるだろ」

 ぐはっ。
 深い考えはないのかもしれないが。

 さすがだ。
 そんなことをサラッと言って退けるとは。