派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

 そこに立ってられたら、困るからですよーっ。

「……遅いじゃないですか」

「ああ、待たせて悪かった。
 予定より長引いて」

 そう言われると、なんだか渚を待ちかねていたようで、腹立つなと思っていると、
「上がっていいか」
と訊いてくる。

「……どうぞ」

 なにかこの人にはもう逆らっても無駄な気がしてきたな、と中へと通した。

 それにちょっと予感があったのだ。

 確かに、言うこともやることも無茶苦茶だが。

 何処か育ちのいいお坊ちゃんっぽいところがあるというか。

 口ではいろいろ言ってはいるが、いきなり、ご無体なっ、という真似はしそうにないというか。

 古い友人だと言っていたが、そういうところは、ちょっと脇田と似ている、と思った。

「ふーん、可愛い部屋だな」
と何故か意外そうに渚は部屋を見回して言う。

「ご飯、食べられましたか?」
と言うと、

「途中で脇田が弁当買ってきてくれたから、食べた」
と言う。