派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

『あくりょう』
 ちょっと可愛いではないか、と思ったとき、ピンポーン、とチャイムが鳴った。

 ひっ、と身をすくめる。

 ど、どっちに出ればっ、と思いながら、スマホを取り、インターフォンにも走る。

『蓮子っ。
 このマンション、電波が途切れるぞっ』
と両方から渚の声が聞こえてきた。

 だが、ひいっ、と思ったのは、それだけが原因ではない。

 渚の後ろをお隣のご主人が振り返りながら通るのが見えたからだ。

『開けろ、蓮っ』

 ようやく名前を覚えてくれたのか、単に蓮子と言うのがめんどくさくなったのか、そう呼んでくる。

 言われなくても開けますっ、と慌ててドアを開けたときには、渚は隣のご主人と挨拶を交わしていた。

 ひいっ。
 昨日、脇田さんが来たのを奥さんに見られたばかりなのにっ!

 次から次へと違う男が来るとかご近所さんに思われたくないっ。

「あ、こ、こんばんはっ」
と笑顔を作り、人の良さそうな隣のご主人に頭を下げ、渚の腕をつかんだ。

 中に引っ張り込むと、渚が、
「どうした。
 積極的だな」
と言ってくる。