派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

「危うく、君のペースにまた引っ張り込まれるところだったよ。
 さっきの和博さんみたいに」

 君はそういうところ、渚とよく似てるよね、と言う。

 そうだ。
 だから、このやり方は、ずっと渚と居た脇田には、いまいち効かない。

「このまま君を襲って、渚に殺されようかな。
 ……それもいいかもね」
と脇田は、いつもの冷静な口調で言い出す。

 いやいやいや、待ってください、と思った。

 昨夜の渚の、俺を殺人犯にする気か、というセリフを思い出していた。

「あのっ、私にそんな価値はないですよっ」
と蓮は訴える。

 実際のところ、経営者の立場から見ても、脇田という人間の代わりはなかなか見つからないだろうと思う。

 自分などと引き換えに、渚が失うには大きすぎる損害だと思っていた。

「第一、脇田さん、本当に私のこと好きなんですか?
 脇田さんほどの人がそんな、信じられないです」

「まあ、僕も信じられないんだけどね」

 好きだと言っておいて、脇田はそんなことを言い出す。